日常から脱出し、冒険心をくすぐる旅

~アドベンチャーツーリズムの魅力と可能性に迫る~

(画像出展:Freepik.com)

どこに行くかよりも何をするか。

バケーションに体験を求める人が増えた近年、アドベンチャーツーリズムが注目を集めています。

雄大な自然を舞台にした心躍るアクティビティへの挑戦や、日常と離れた環境での五感を刺激するような文化体験を通して、自分自身を再発見したい。

アドベンチャーツーリズムは、そんな旅行者にぴったりの旅の形です。

この魅惑的な世界をもっと深く掘り下げてみましょう!

今回の記事では、アドベンチャーツーリズムとは何か、なぜいま注目されているのか、日本ではどんな事例があるかや、これからどのように発展させていったらいいのかについて詳しく見ていきます。

●目次

●アドベンチャーツーリズムとは?

国連世界観光機関(UNWTO)は、アドベンチャーツーリズムとは「身体活動、文化交流、自然とのつながりを伴った、特定の地理的特徴や景観を持つ目的地で行われる旅行形態」だと定義しています。

アドベンチャーツーリズムというと、熱帯雨林のトレッキング、急流を下るラフティング、雪山登山などある程度の技術や体力を必要とするアクティビティが想像されがちですが、アドレナリンが湧き出るような冒険や肉体的な挑戦だけがアドベンチャーツーリズムではありません。先住民のコミュニティから伝統工芸を学んだり、古代の遺跡を探検したりといった文化体験もアドベンチャーツーリズムに含まれます。

世界最大のアドベンチャー・トラベル事業者のネットワークであるAdventure Travel Trade Association(アドベンチャー・トラベル・トレード協会)は、アドベンチャーツーリズムを「アクティビティ、自然、文化体験の3つの要素を2つ以上体験できる旅」だといいます。

多種多様なアクティビティを通して、五感すべてで自然や文化と触れ合い、単なる観光を超えて自分自身と向き合う貴重な体験ができるアドベンチャーツーリズムは、欧米などの富裕層を中心に人気が高まっている旅行のスタイルです。

●なぜアドベンチャーツーリズムが注目を集めているのか

アドベンチャーツーリズムは近年右肩上がりの成長を遂げており、アメリカの調査会社Global Market Insights Incのレポートによると、2023年のアドベンチャーツーリズムの世界市場規模は4,833億米ドル(約76兆円)と推定されています。この成長は今後も衰える気配はなく、同レポート内では、2024年から2032年にかけては年平均成長率15.2%で拡大し、2032年には1兆6,500億米ドル(約259億円)に達すると予測されています。

これほどまでに世界中で人気を集めるのはなぜでしょうか。

理由としては、主に以下の5つが挙げられます:

  1. 個性的な旅へのニーズ
    画一的な観光プランではなく自分だけのオリジナルな旅がしたいという需要が、特にミレニアル世代を中心に増えています。ユニークで没入感のある体験を求める旅行者に、アドベンチャーツーリズムは多種多様なアクティビティを提供できます。

  2. アクセシビリティの向上
    インフラの整備や新しい目的地の開発により、かつては行きにくかった遠隔地や秘境といった場所にも手が届くようになってきました。これにより市場が拡大しています。

  3. ウェルネスと自己実現への関心
    現代社会のストレスから解放され、旅で心身をリフレッシュしたいと、旅にウェルネスと自己実現を求める人が増えています。アドベンチャーツーリズムは、自分の限界に挑戦し、成長する機会を提供します。この達成感と自己実現の喜びが大きな魅力となっています。

  4. サステナビリティへの意識の高まり
    持続可能な開発目標(SDGs)への意識の高まりから、環境に配慮した旅を求める人が増えています。環境保護や地域貢献と切っても切れない関係にあるアドベンチャーツーリズムは、持続可能な旅行のスタイルとして期待が寄せられています。

  5. ソーシャルメディアの影響
    アドベンチャーツーリズムは秘境探検家のためだけのものではありません。ソーシャルメディアでアドベンチャーツーリズムの体験を目にすることで興味が惹きつけられ、実際に体験したいと思う人が増えています。

仕事でもプライベートでも効率化を求められる現代社会で、本物の体験や実感できる変化を求める人が増えています。アドベンチャーツーリズムは、せわしない日常生活のルーティンから自分を解放し、自然とのつながりを取り戻し、自分の限界を試すチャンスを与えてくれます。

一般的な「観光旅行」の枠を超えて、自然・文化体験を通して達成感を味わい自信を育める。これがアドベンチャーツーリズムが旅行業界で近年目覚ましく急成長している分野の一つである理由です。

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●どんなアクティビティが人気なのか

アドベンチャーツーリズムには幅広いアクティビティが含まれますが、どんなものが人気を集めているのでしょうか。

アドベンチャー・トラベル・トレード協会による2023年ツアー・オペレーター動向調査によると、トレンドランキングTOP10に入ったのは次のアクティビティです。

  1. ハイキング/トレッキング/ウォーキング
  2. 文化体験
  3. 料理およびガストロノミー
  4. サイクリング(山/非舗装路)
  5. サファリ/野生動物観察
  6. ウェルネスに焦点を当てたアクティビティ
  7. サイクリング(電動自転車)
  8. サイクリング(ロード/舗装路)
  9. 写真(野生動物/自然)
  10. バードウォッチング(トップ10に新着)

世界的に最も人気のあるアドベンチャー・アクティビティはハイキング/トレッキング/ウォーキングですが、ランキングはどの地域に旅行に行くかによって、傾向が若干異なります。

日本があるアジアでは文化体験がトップ、その後、ハイキング/トレッキング/ウォーキング、料理およびガストロノミー、サイクリング(山/非舗装路)、写真(野生動物/自然)と続きます。


アドベンチャーツーリズムというと、少年たちがひたすら線路を歩く『スタンド・バイ・ミー』や青年がアラスカに放浪にでかける『イントゥ・ザ・ワイルド』といった映画のシーンを思い浮かべるかもしれませんが、ランキング入りしているのは気軽に体験できる小さな冒険がほとんどです。

冒険家にとってのアドベンチャーツーリズムは地球の裏側での長距離トレッキングでも、一般の旅行者にとってのアドベンチャーは、自宅近くの新しい街での簡単なウォーキングでもいいのです。

自分の興味やアドベンチャーツーリズムを体感できるアクティビティを選べるところが、アドベンチャーツーリズム人気を支える一番の要因かもしれません。


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●日本のアドベンチャーツーリズムの事例紹介

日本にはどんな地域資源があって、どのような体験できるのでしょうか。

我が国の自然や文化といった豊富な地域資源を活用し、日本の本質を深く体験・体感できるアドベンチャーツーリズムを推進することは、国内外の旅行客の消費額増加や満足度向上に繋がることが期待されています。

観光庁では2021年に「アドベンチャーツーリズム等の新たなインバウンド層の誘致のための地域の魅力再発見事業」として12件の事業者と実証事業を行いました。

ここでは、観光庁の実証事業に採択されたアドベンチャーツーリズムの事例を紹介します。

RingomeetsArt-弘前りんご農園アートトリップ
 

青森県弘前市
 

現代アートミュージアム「弘前れんが倉庫美術館」で特別なディナーを味わい、りんごを使ったサウンドインスタレーションやりんご園と共生する地域の人々の暮らしに触れる「りんご」と「アート」をコアにした1泊2日の上質な体験プログラム。

日本を結ぶツーリングGrand Tour Musubi Japan 日本魅力再発見-東京-埼玉-茨城-栃木編-

栃木県日光市、宇都宮市、那須町ほか

クラシックカー及びラグジュアリーカーのオーナーを対象に、茨城県や栃木県等の雄大な自然に囲まれたコースをドライブし、上質な宿・建築・食事等の地域独自の文化を体験する2泊3日の長距離ツーリング。

 

長期滞在型佐渡まるごとアドベンチャーランド事業
 

新潟県佐渡市

文化や自然など、歴史的にも地理的にも「日本の縮図」と言われるほどの観光資源を保有する佐渡で、サイクリング×酒蔵巡りツアーなど、佐渡のアクティビティ・文化・自然を堪能できる長期滞在プラン。

 

日本独自のハードアクティビティ『沢登り』の磨き上げ・魅力発信事業

福井県若狭町

古民家を改装した宿泊施設「八百熊川」など、若狭熊川宿を中心としたまちづくりに取り組んでいる福井県若狭町で、日本独自のハードアクティビティである「沢登り」と上質な宿を組み合わせたアドベンチャーツーリズム。
 


南アルプスの古道を活用したE-MTBツアー造成事業
 

山梨県南アルプス市、富士川町

古道を活用したE-MTBツアーを造成するために、地方公共団体等に対して山道利用に関する許認可取得のための働きかけや、MTBトレイルの整備を実施。森林・山道の維持管理及び地域社会の活性化に対する取組の持続可能性を高め、南アルプスをアジアNo.1のMTBデスティネーションとすることを目指す。

アドベンチャーツーリズム推進による“飛騨地域”のリゾート化(ネイチャー・リゾート)事業

岐阜県飛騨市、高山市、郡上市
 

長期滞在先として選ばれるデスティネーションとするため、薬草栽培文化を学ぶツアー、ジビエ狩猟の世界を体験できるツアー、五色ヶ原の森のハイキングと上質な宿を組み合わせたツアーといった岐阜県の自然・文化を活用したアドベンチャーツーリズム。
 

京都広域サイクルツーリズム事業


京都府宮津市、南丹市ほか 

 

豊かな植生自然を感じながら変化に富んだトレイルルートやサイクリングルートを構成でき、また、日本の山間の里や小さな漁師町を訪れ、日本らしい文化や景色が楽しめる海の京都・森の京都エリアにおいて、地域の自然・文化を味わえるサイクリング、トレッキングを含めた滞在型の観光。

To Touch the Holy Waters of Kumano 〜秘境南紀水を全身で感じる旅〜


和歌山県田辺市、白浜町、すさみ町、その他県内全域

熊野古道を訪れる富裕層観光客に対して、紀伊半島のプラスαの魅力となる「水」をテーマに、雄大な渓谷・瀞峡(どろきょう)での限定アクティビティや、特別な食体験を組み合わせることで、長期滞在と顧客単価向上を狙う新たな観光。
 


高質な磯・海岸遊びを探求する隠岐ジオツーリズム事業

島根県隠岐の島町、知夫村、海士町、西ノ島町

ユネスコ世界ジオパークに登録され、大陸的な地質、離島という環境に起因する不思議な植物分布など、豊富な自然資源を保有隠岐で、自然の雄大さを体験できるカヤック・キャンプのツアー。

川との共生四万十川ステイカレッジ(ロングステイ)

高知県四万十町

日本最後の清流“四万十川”を起点に、カヌーによる川下り、ラフティング、キャンプ等のアクティビティや、四万十川流域で暮らす人々の生き方や価値観に触れられるロングステイツアー。

日本最高峰の牡蠣生産地!オイスターアイランド九州

佐賀県太良町

日本で有数の牡蠣生産地である九州を「牡蠣の島」=「オイスターアイランド九州」としてブランド化。牡蠣生産の現場を巡り、牡蠣料理を食し、牡蠣にまつわるストーリーを聞くツアー。

千年続く草原文化を次世代に紡ぐ阿蘇ツーリズムの創造

熊本県阿蘇市

千年以上受け継がれてきた草原の暮らし、ユニークな農耕祭事、郷土料理、伝統の「草泊まり」等を体験する滞在型の商品造成と、持続可能な草原活用についてのガイドラインの策定を実施。

また、雄大な自然・多様なアクティビティ・独自の文化を持つ北海道は、2023年にアドベンチャー・トラベル・トレード協会が主催する「アドベンチャー・トラベル・ワールドサミット(ATWS)」の開催地に選ばれました。

アドベンチャーツーリズムの経済効果は北海道だけでも2030年には1兆円になるとの試算(日本政策投資銀行)があり、大きな期待が寄せられています。

●持続可能なアドベンチャーツーリズムを発展させていくための5つのポイント

これまでは、アドベンチャーツーリズムの目的地として最も好まれる地域はヨーロッパでした。

しかし近年は傾向が変わってきており、アドベンチャートラベル・トレード協会の調査では、加盟ツアーオペレーターの顧客が選んだ目的地ランキングで、日本が4位に挙げられています。

今後も継続して成長が見込まれるアドベンチャーツーリズム市場。日本に冒険者たちをより惹きつけるためには、どんなアプローチが必要でしょうか。

ここでは、持続可能なアドベンチャーツーリズムを発展させていくために注力すべき5つのポイントをご紹介します。

  1. ユニークなアドベンチャー体験の開発
    自然の美しさや文化の地域色が豊かな日本。旅行者にじっくりと滞在して楽しんでもらうためには、地域の観光資源を活かしたユニークなアドベンチャー・アクティビティの開発が大切です。ハイキングやウォーキングツアーはもちろん、地元の人々との交流や伝統的な文化体験など、アドベンチャーツーリズムのランキング上位にある、旅行者が求めるアクティビティを数多く造成することが求められます。

  2. ツアーガイドの言語熟練度の強化
    国内のみならず国外からも旅行者を集めるためには、効果的なコミュニケーションが取れるだけでなく、ストーリーテリングを通じて外国人旅行者の興味を引きつけられる、語学力の高いガイドの存在が不可欠です。外国語で楽しい語りを提供し、アクティビティ中のリスクを管理できるガイドは、海外からの旅行者に高く評価されます。

  3. 地元の文化や料理を紹介する
    アドベンチャー・トラベラーは伝統的な食べ物や文化的慣習に強い興味を持ち、地域社会との交流を求める傾向にあります。その土地独自の文化や食体験をアピールすることで、没入感のある体験を求める旅行者を惹きつけることができます。

  4. 持続可能性と環境に配慮する
    自然や異文化の中でアクティビティを行うアドベンチャーツーリズムは、サステナビリティとは切り離せない関係です。アドベンチャー・トラベラーは環境への影響に配慮し、持続可能性に取り組んでいる旅行先を好む傾向にあります。環境に優しいアクティビティを推進し、地域資源の保護活動を支援することで、環境意識の高い旅行者にアピールできます。

  5. 海外パートナーとの提携
    海外のツアーオペレーターや旅行会社と提携することで、多様な旅行者を惹きつけられます。海外の事業者とのコラボレーションは、知名度を高め、アドベンチャーツーリズムの目的地として地域を宣伝するのに役立ちます。国際的なイベントや見本市への参加も効果的です。ネットワークを広げ、旅行者数の増加につながるパートナーシップを築きましょう。

アドベンチャーツーリズムは、地域の経済を成長させ、環境保護への意識を高め、文化交流を促進する可能性を秘めています。

地域の魅力ある自然・文化・食・建築などの資源を発掘・再認識し、継続性が高い観光コンテンツへと磨き上げながら、旅行者にとって思い出に残る、日本ならでは体験を創造・提案していきましょう。

(画像出展:Freepik.com)

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