【湯河原温泉 懐石旅庵 阿しか里】
~木のぬくもりを感じる旅の庵で、もてなしと、遥か万葉の世から続く柔ら湯に癒やされる~
神奈川県と静岡県の県境、相模湾に箱根山麓の清らかな地下水を注ぎ込む千歳川の川沿いに、1500余年の歴史を持つ温泉地、湯河原があります。
この湯河原温泉を見渡すような丘陵地にある「懐石旅庵 阿しか里」は、木造の数寄屋建築という古き日本の良さをベースにしながら、2700坪の借景をふんだんに活かして訪れる人を癒やす「旅の庵」です。
今回は支配人の大熊宏昌氏に、湯河原温泉の歴史や魅力、そして、「懐石旅庵 阿しか里」について詳しくお聞きしました。
●目次
●湯河原温泉と懐石旅庵 阿しか里
-まずは、湯河原温泉の特徴をお伺いしてもいいですか。
当旅庵のコンセプトブックに「遥か万葉のとこから人々を癒やし続けた湯河原の1500年開湯の湯本にて」と記しているとおり、湯河原は非常に歴史がある温泉です。
「万葉集」はご存じですよね。7世紀後半から8世紀後半にかけて編纂された現存するわが国最古の歌集ですが、この中の一首に、湯河原温泉が登場します。
「足柄(あしがり)の 土肥(とい)の河内に 出づる湯の 世にもたよらに 子ろが言わなくに」
湯けむりと恋心をかけた詩といわれていますが、この「足柄の土肥」というのが湯河原のこと。湯河原温泉の起源は諸説ありますが、この詩が詠まれた1250年前ぐらいには、すでに湯河原の渓谷には温泉が湧いていて、人々に知れわたっていたことになります。
湯河原は千歳川沿いに栄えた温泉地なのですが、川沿いの敷地は狭いので、全体的に小ぶりな旅館が集まっています。それが隠れ家的な湯治場の雰囲気を醸し出していて、古き日本の温泉地風情がしっかり残っています。
箱根と熱海という二大温泉地の影に隠れがちですが、湯河原は新幹線駅の小田原からは3駅先、熱海からは1駅手前と首都圏からのアクセスは抜群。温暖な気候と山海の幸に恵まれた名湯ということで、古くから多くの湯治客が訪れています。
明治以降の文人墨客、たとえば夏目漱石、与謝野晶子、芥川龍之介なども、この山あいの静かな温泉郷を愛し、創作活動を行ったり、この地を作品の舞台に取りあげたりしました。
-阿しか里さんも、歴史のあるお宿ですよね。
湯河原温泉の旅館のなかでは比較的歴史がある、創業80年の老舗旅館です。
「阿しか里」という名前の由来はこの地域の古い地名です。さきほどの万葉集に詠まれている「足柄」のもう少し広範囲な地名が「芦刈(あしかり)」、その旧名である「阿しか里」を宿の名前に取り入れました。
正面玄関を始めとした外観は、茶室建築の手法・意匠を取り入れた数寄屋造りとなっています。現在は、躯体は残したままにリニューアルを施し、数寄屋造りをベースに、スタイリッシュさを融合させた趣としつらいを持つ宿です。日本建築のきめ細かさ、質の良さが空間にデザインされているのが阿しか里の特徴の一つで、私共はあえて、旅館ではなく旅庵という言葉を使っています。
最近はモダンタイプやビルタイプなどデザイン性のある旅館が増えていますが、機能性がありながらも「和に触れたい」という方には、当旅庵はピッタリはまるかと思います。海外からのお客さまには、特にご好評をいただいています。
旅庵は2,700坪を超える雑木林に囲まれていて、鳥の声がいつも聞こえます。自然の音や光を最大限取り込めるよう、窓の開口をできる限り大きく広げたガラスサッシとしました。室内と外の空間の境目をできるだけ無くし、自然に限りなく近づけるというのは、特に工夫しているところです。
●一つひとつ、違った表情を持つ17室の部屋
-お部屋について、詳しく教えていただけますか。
館内には17室の部屋があり、全客室に湯河原の柔ら湯の源泉を掛け流しの露天風呂を完備しています。
もともとは全部で19部屋だったのですが、露天風呂付きの客室に徐々に改装していくなかで、2部屋を合わせて100㎡のスイートルームにしたものを2つ作りました。「葛城」と「相模路」という阿しか里で一番大きい部屋です。
阿しか里のお部屋の大きな特徴は、全部屋が、一つひとつ異なるしつらい、表情、空間を持っていることです。
もともとの木造建築の良さを活かした客室は、天井が高かったり、梁を残したり、和の素朴な感性、自然感といったものを強く感じていただけます。高い天井の大梁を露出し、高さのあるガラス窓があることで、広々として明るく、開放感にあふれています。ただ、客室の構造は一つひとつ違っており、それぞれの部屋に個性豊かな表情、居心地があります。
また、館内はコの字型で、客室のお風呂がすべて外側についているので、客室によって望める景色が違います。阿しか里は湯河原の丘陵地の高低差を利用して作られているので、お部屋の窓から見える景色はそれぞれ。2,700坪の庭の借景、さらに四季の自然は移ろうので、来るたびに違う景色が見られるという楽しみがあります。
ソメイヨシノの時期によっては部屋でお花見が出来るんですよ。桜花と萩というお部屋の前に桜の大木があり、その上の階に葛城と相模路というお部屋があります。上から下までガラス張りの大窓の前に満開の桜が咲く時期の景観は見事です。
庭の借景が楽しめるお部屋もあれば、遠景に湯河原の街並みや箱根の外輪山が見晴らせるお部屋もあります。それぞれの部屋から見える景色に見入っていると、自然と癒やされることと思います。
リピーターさんから「次はお部屋を変えてみたい」というリクエストをいただくことも多く、こちらから前回とは趣がことなるお部屋をお勧めすることもあります。
(客室の名前は、九重、泊瀬、十六夜、珠衣、相模路など、すべて万葉集に詠まれている詩の言葉を用いている)
-阿しか里は、ウェルカムベビーの宿に登録されているのですよね。
赤ちゃんや子ども連れでも安心して宿泊できる宿として、ミキハウス子育て総研から「ウェルカムベビーの宿」の認定を受けています。認定にはかなり細かい基準がありますが、それらをクリアし、赤ちゃんに安心なスペックを備えることができました。すべての客室に露天風呂がついているので赤ちゃんの入浴も安心ですし、お子さま連れのお客さまに安心・快適にご宿泊いただけるよう、お子さま向けのサービスや備品を手厚く取りそろえています。
お子さまとのお出かけには必要なものがたくさんあり、旅行の準備も大変です。なるべく身軽にお越しいただいて、館内に何でも揃っているように、ベビーチェアやキッズチェア、オムツ用ゴミ箱や、お子さま用の食器、調乳ポットなどをご用意しています。
ただ、静かに過ごされたいお客さまも来られますので、お部屋やお食事処のアサインにはしっかり配慮しています。
阿しか里はお食事処が3か所に分かれていて、ロビーも入れると4か所でお食事を召し上がっていただけます。ロビーはシャッターのようなプリーツで3つのダイニングスペースとして使えるので、お食事場所のバリエーションは少なくありません。赤ちゃん連れのご家族同士だと、赤ちゃんがぐずってしまった時なども気楽にお食事ができるとのお声もありますので、赤ちゃん連れのお客さまが複数いらっしゃった場合は、あえて同じ食事処をご案内させていただく等、出来る限りのご準備をさせていただいております。
調理場から近いお部屋ではお食事は部屋出しでのご提供なので、静かに過ごされたいお客さまにはこのタイプのお部屋をご提案するといった配慮をし、できる限り皆さまに気持ちよくお過ごしいただけるよう気を配っております。
食事処の窓からは、夕食時はライトアップされた庭の木々、朝食時は朝日に輝く山々を愛でることができます。その時々とシーンに合わせて、お料理と共にお食事空間の居心地もお愉しみいただけます。
●二十四節気の懐石料理と借景の大浴場
-食事は、施設名にあるとおり懐石料理が特徴でしょうか。
はい、細かい仕込みの積み重ねでしっかりと作り込む、本格的な懐石料理をご提供しています。
地元真鶴港、福浦港、相模湾水揚げの新鮮な海の幸と、足柄、三島の大地、空気に育まれた畑山の幸を中心に、全国の選りすぐりの旬の味覚、四季折々を織り込んだ食材を使った料理を「二十四節気の懐石料理」と銘打ってお出ししています。
季節の移ろいを料理で表現したお皿は、一品一品が細かくて華やか。料理の色と調和する食器漆器を選び、視覚でも楽しんでいただける懐石料理です。
特別なお祝いの機会などでの別あしらいの料理や、各種アレルギー、宗教上の理由などによる食材の制限にもご対応しています。前もってのご要望に応じまして、お子さま用の料理をはじめ、お食い初め、ご結婚周年、お誕生日、喜寿・米寿、ご卒業、ご退職などのお祝い事にも、お赤飯といった思い出を彩るお料理をご準備しております。
-大浴場は2023年3月に改修が終わったばかりだそうですね。
館内の2つの大浴場、「高嶺」と「草枕」です。改修前は内風呂形式だったのですが、自然を肌で直接に感じていただけるよう、完全開閉式のガラス張りの露天風呂形式に改修しました。
高嶺の湯は、苔庭と雑木の庭を足許に、箱根外輪山の大借景を望みながら、さび御影石を用いたしっとりと落ち着いた空間で、柔ら湯をご堪能いただけます。
一方で、草枕の湯は、坪庭に落葉樹を配し、湯河原の山並みと大空を見上げる、御影石が安らぎの空間を演出しており、湯浴みの合間をお愉しみいただける磁器デッキもご準備しております。借景の効いた坪庭を眺めながら、湯河原の源泉に身をゆだねるひと時をお楽しみいただければと思います。
湯河原温泉の泉質は柔らかな単純アルカリ泉。美肌効果が高く、神経痛等をはじめさまざまな効能をもたらしてくれる、お肌と心にやさしい温泉です。外傷や火傷にも良く効くので昔から「傷の湯」と呼ばれ、明治時代には日清・日露戦争の傷病兵の療養所にも指定されました。「薬師の湯」、万病に効果があるとも言われています。
湯河原温泉は豊富な湧出量でも有名です。たっぷりのお湯に浸かりながら借景を眺める贅沢な時間で、身も心も癒やしていただければと思います。
●懐石旅庵 阿しか里の公式情報
ホテル名:懐石旅庵 阿しか里
住所:〒259-0314 神奈川県足柄下郡湯河原町宮上734
TEL:0465-62-4151 FAX:0465-63-4811
メールアドレス:[email protected]
アクセス:
【車】
◆東名高速道路厚木I.C.から小田原・厚木道路に入り湯河原下車(約50分)
◆東名高速道路御殿場ICから箱根スカイライン、芦ノ湖スカイライン、湯河原パークウェイを経て湯河原へ(約60分)
【電車】
◆JR新幹線:東京・大阪・名古屋から新幹線利用で熱海へ
JR東海道本線に乗り換え湯河原駅下車(約5分)
◆JR在来線:東京からJR東海道本線、在来線利用で湯河原駅下車(約90分)
※JR湯河原駅より送迎あり(車で約7分:事前予約制)
【タクシー】
◆JR湯河原駅から約7分/ 約1200円
◆JR熱海駅から約20分 / 約3500円
■今回お話をうかがった方
支配人 大熊宏昌 氏