中世ヨーロッパにタイムスリップ!
~モンツァンバーノ村の中世再現祭り~
タイムスリップができたら、どこに行きたいですか。
現在の科学技術では叶わない夢ですが、過去の歴史行事や生活習慣をリアルに再現して、タイムスリップした気分にさせてくれる催し物は世界各地で行われています。
私が住むイタリアでは、コロッセオで剣闘士が戦っていた古代ローマ時代を目の当たりにできるイベントや、ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」の画面の中に飛び込んだかのような気分になれるお祭りがあります。
「中世の雰囲気に浸って、美味しいものを食べに行こう!」
イベントチェックに余念がない友だちに誘われて出かけたのは、ガルダ湖の南端に近いモンツァンバーノ村の「中世再現祭り」。今回は、私の秋の遠足のレポートです。
#モンツァンバーノ村とは
モンツァンバーノ(Monzambano)村は、イタリア・ロンバルディア州マントヴァ県にあります。
人口5000人足らずのこの小さな村の丘の上にあるのが、モンテ・ザンバノ(Mons Zambanus)城。
11世紀に起源を持つこのお城は、領主の居城ではなく、蛮族の攻撃から住民を守るために築かれました。守備隊の住居として、また、家畜や物資を持ち込んでバリケードを築いた村の人々の緊急避難場所として機能していたようです。
中世後期になると、当時の通信路に沿った位置にあるモンツァンバーノ村は、旅行者や商人にとって重要な拠点となりました。経済が発展したことで、村の人口が増え文化が発展。現在の街並みにところどころに往時の名残が見て取れます。
糸杉に囲まれた壮麗なサン・ミケーレ教会
教会前の広場はお祭りのパレードの集合場所
旗振り隊は最後のリハーサル中
#中世を再現したブドウ祭り
モンツァンバーノ村の中世再現祭は「Festa dell'Uva(ブドウ祭り)」として知られ、毎年9月の第3週末に開催されます。
もともとは収穫期を祝う地元のブドウ祭りだったのですが、1990年代に村の中世の遺産と豊かな伝統文化を祝うことに力を入れ、中世の歴史を「村ごと」再現するお祭りになりました。
祭りの期間中、丘陵地帯にある静かな村は、活気ある中世の市場へと変貌します。
中世の装束を身に纏った約400人の参加者がモンツァンバーノ城下に集まり、曲芸師や旗振りによるパフォーマンス、中世当時の工芸品の再現などが行われます。
城下の小路は貴族、武具商、庶民の衣装をまとった人々によって彩られ、あちらこちらでジャグラーやストリートミュージシャンによるパフォーマンスが繰り広げられる。
人で溢れる通りには、お祭りの期間中限定で屋台が並び、当時の作り方を模した郷土料理や地元産ワインが味わえます。
伝統、文化、美食が融合したユニークな体験が楽しめる、知的好奇心も食欲も満たせるお祭りなのです。
#城門の向こうは中世ヨーロッパだった
2024年の中世再現祭(第49回)は9月13日から16日まで開催されました。
私が訪れたのは9月14日土曜日の夕方。
お城に通じる城門はお祭りの入場一カ所を残して閉鎖されていたため、入場開始の19時のだいぶ前から、城門の前には人が溢れていました。
城門前で4ユーロの入場料を払います
最初に設けられていたのは中世の娯楽ゾーン。
真っ白な衣装を着た男の子が、おとぎ話が書かれた巻紙を売っていました。
「遠い世界から私たちに語られたあなたのおとぎ話を、魅惑のバスケットから取り出してください」
何が書かれているか分からないおとぎ話の筒は1ユーロ。8歳の娘はさっそくお財布からコインを取り出します。
大人だけでなく子どもも参加しているお祭りなんだ。ワクワク気分があがりました。
城壁沿いには小さな屋台がいくつも並んでいて、中世の衣装を身につけた売り子さんが、それぞれのお店の自慢の商品を説明してくれます。
「魅惑の森の芳香」スタンドのおすすめは薬草茶
子ども達がハーブをすりおろし、ハーブ塩を作っていました
娯楽ゾーンの次は中世のお仕事ゾーン。
一番最初にあったのが「AMANUENSI(代書屋)」。
個人または代書屋センターに仕えて、本人の代理で書類や手紙などを書いていた中世の専門職です。いわばライターの大先輩!
ドラマの舞台から飛び出てきたようなおじいちゃん
「書くことは、沈黙の中で話すようなもの。何も言わずに多くのことを語ります」
工房エリアでは、職人さんたちが工芸品を作っています。見たこともない、どう使うかもわからない道具ばかりですが、手仕事の様子を眺めていると、なんとなくですが想像できました。
いったい、何百年前の道具なんだろう
なにを作っているのかな?と思ったら、ロウソクでした
#松明に照らされる夜の城下町
一つひとつの屋台やブースをじっくり見ていたら日が暮れてきました。お城に向かう坂の小道の城壁沿いには松明が掲げられ、なんともいえない雰囲気に満ちています。
仕事が終わった開放感で日暮れに賑やかになるのは中世も現代も一緒。あちらこちらで楽器の音色や歌声が響きます。
「宮廷道化師の中庭」と名づけられた小さな広場では、道化師がコミカルに漫才や寸劇を披露して、観客を楽しませていました。
#見て食べるだけじゃない、観光客参加型のお祭り
このお祭りで私が「素敵だな」と思ったのは、観光客も村民のひとりとして、生活シーンに参加ができることです。
たとえば、ブドウ踏み。
実家がワイン農家だというお姉さんから中世のワイン作りについての説明を受けながら、娘とお友だちはブドウがいっぱいの樽に腕まくりならぬズボンまくりをしてドボン。「冷た〜い」と言いながらブドウの果実を踏みしめていました。
また、「BATTIMONETA(硬貨叩き)」のお店では、好きなモチーフを選び、職人さんから簡単なレクチャーを受けてトンカチを振るい、自分だけの硬貨を作ることができます。
21世紀のいでたちの自分が「あれ、私どこにいるんだろう」と一瞬考え込んでしまうような、情緒豊かで魅力的な雰囲気はまさにタイムスリップそのもの。
村ぐるみで城壁のなかを中世に仕立て上げる住民の努力のおかげで、お祭りのような雰囲気の中で地元の伝統に触れることができました。
― 今回行った場所 ―
モンツァンバーノ村 (MONZAMBANO)
https://monzambanomedievale.com/
【モンツァンバーノ村へのアクセス】
飛行機で:最寄りの空港は約20kmの距離にあるヴェローナ・ヴィラフランカ空港(VRN)。モンツァンバーノまでは、バスや電車などの公共交通機関を利用するか、タクシーやレンタカーを利用するのが近道。
鉄道:ミラノからは、ヴェネツィア行きの列車に乗り、Peschiera del Gardaで下車。そこからバスでモンツァンバーノまで行くことができる。
バス:ヴェローナやマントヴァなどの近郊都市とモンツァンバーノを結ぶ路線バスが運行されている。
車:モンツァンバーノへは高速道路A22で簡単にアクセスでき、ミラノからの所要時間は約2時間。